ひとやすみ

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ダサいと思う人にこそMCバトルを勧めたい⑴

ラッパーが向かい合って韻を踏みながら口喧嘩をする。これがMCバトルである。

 

MCバトルは好きな人は好きだが,関心のない人は本当に関心を抱かないという印象を受ける。かく言う私はテレビ朝日で放送されていた「フリースタイルダンジョン」のFORK対R-指定を見てMCバトルにハマった口である。

ところで,無関心の理由として考えられるのは3点あると思われる。つまり,①「ラッパーが」やるのに歌とも文句とも言い難い音楽的観点から見た中途半端さ,②「韻を踏みながら」喧嘩することでポイントがずれるという違和感,③そもそも「口喧嘩」を見ること自体にある不快感が原因と考えられる。

そこでこの3つのポイントを払拭するようなMCバトルを紹介しつつ,バトルの魅力を紹介したい。

 

※できるだけ専門用語を抜いて説明するから詳しい人にとってはちょっと違和感があるかも。

 

本日は①の中途半端だという印象について。こう思う人は音楽好きなのではないかと思われる。ちゃんと音楽を聴いたことがあるからこそHIPHOPの文化としてMCバトルが音楽的に微妙だと感じてしまうのではないだろうか。

このように思う人はMCバトルを「セッション」として考えてほしい。セッションは通常,楽器の演奏者がリズムに合わせて自由にフレーズを弾く形式で行う。MCバトルはこれがボーカルに代わっただけと考えると,DJの回すビートに合わせてどのようなメロディとリズムで歌うかという音楽であると見ることができるのではないか。

 

文章で語っていても仕方がないのでバトルをいくつか紹介したい。

1. Lick-G vs MOL53

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MCバトルを最もセッションとして捉えているのはmol53(現在はRAWAXXXとして活動)なのではないだろうか。ビートに対して常にどのようなメロディあるいはリズムのアプローチをするか探求しラップをする印象がある。

対するLick-Gはイギリス人とのハーフで西欧のHIPHOPをしっかり踏襲したハイレベルな音楽センスを随所に見せるラッパーだ。冒頭でmol53にはUSっぽさをディスられているが,個人的には,単なるUSのデッドコピーではなく,日本語ラップにUSの要素を落とし込むバランス感覚も優れていると思う。

US風のアプローチでビートを乗りこなすLickに対してmol53がどのようなビートアプローチを見せるのかがこの勝負の見どころ。

 

2. MU-TON vs S-kaine

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続いては若手を紹介したい。先ほどは楽器のセッションがマイクに代わっただけという言い方をした。MU-TON(ヘッドバンドの方)はそれを最も表しているラッパーといえよう。MCはフレーズを考えてそれをビートに乗せるという発想をするのが通常と思われるが,MU-TONはビートに合うメロディを考えて,そこに連想ゲームのようにフレーズを当てはめていくというスタイルだ。なので文字にすると何を言っているか分かりにくいが,耳で聞くと気持ちがいいという唯一無二のスタイルが出来上がっている。

対するS-kaine(キャップの方)は,2001年生まれの超若手にもかかわらず,まるでベテランのようなラップをするスーパールーキーだ。

MU-TONのメロディアスなラップに真っ向から相対するS-kaineという構図が熱い。

 

3. CHEHON vs ID

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最後にちょっと角度を変えてということで,レゲエシンガーとして有名なCHEHONが参戦した試合を挙げておきたい。

最初の方でレゲエとHIPHOPのMCバトルの違いが表れている点が非常に面白い。勝負の中でも触れられているように,レゲエのMCバトルは自分の持っている歌のフレーズから試合相手とビートに合うものを選び出すというやり方。一方で,HIPHOPの方は原則として即興性が求められており,その場でメロディ,と韻を踏んだ言葉を考えなくてはならない,その難しさに価値が置かれている。この価値観の違いが一種のスタイルウォーズを生み出している。

IDアメリカ人とのハーフでUSのスタイルを踏襲した高いHIPHOPスキルを見せつける,対するCHEHONはレゲエの古豪としてレゲエの流儀に乗っ取ったフレーズで応戦するという形で両者はなかなか噛み合わず勝負は延長までもつれ込む。延長で両者のスタイルが噛み合った瞬間の掛け合いは必見。