いわゆるラップミュージックについて(2)
前回はラップミュージックをエコノミーな音楽,つまり「安い」音楽であるかのように紹介してしまったが,もちろん音楽的に参照すべき部分は多々ある。
①ブラックミュージックの要素
ラップミュージックはアフリカ由来の音楽であり,特に音楽に対して歌をどう乗せるかについてはJPOPにはなかなか現れない独特なものがある。ただこれだけであればソウル・ファンクといった音楽もそうした要素を持っている。
②名曲のサンプリング
サンプリングに採用されている曲はしばしばソウル・ファンク・ジャズの名曲であったりする。
例えば,前回出てきたライムスターの「The Choice is yours」。勢いあまって構成がJPOPと言ってしまったが,サンプリング元は「I Believe in Miracles」ゴリゴリのファンクである(ジャクソンファミリーのジャクソンシスターズによるカバーの方が有名かもしれない。)。
youtu.beこのように原曲は通じゃないと聞かないような曲もサンプリングを通じて拡散してくれる役割があるといえる。ロマンシングサガRSやアークザラッドRみたいなもんだな(伝われ)。もっとも,サンプリングをしなくともカバーで事は足りるということを考えると音楽的要素とは別に他人のふんどしを借りる的な意味合いがある場合も少なくはない。
③歌詞へのフォーカス
ラップミュージック固有の特徴といえるのはやはり押韻ではないだろうか。もちろんJPOPでも韻は踏む。だが,韻をいかに踏んでいるかという点が曲に対する評価の対象になる,もっと言えば作詞に対する評価の軸が存在するというのがラップミュージックにおいて重要なのではないだろうか。
韻,押韻というのは一定の小節において子音や母音をそろえて語気を整えることだ。
例えばこの曲の「あっちからこっちまで一網打尽(iioai) 他のことなんて心配の必要なし(iioai)」みたいなのを指す。もちろん押韻の手法もさまざまであるからこの手の小節の末尾で母音をそろえるというのだけが押韻ではない。
押韻の主な効果は言葉のリズムを整えることにあると思われる。ただそれだけではなく,韻によって導かれた言葉が思いもよらぬ意味を持つこともある。
3:48~の「俺の感受性ならば尾崎(ai) 世界観なら底なし(ai) 武,水谷(ai),馬並み(ai)の相棒が助太刀(ai)」というフレーズはそれぞれの言葉の末尾で踏んでいるのだが,これに加えて
①感受性は豊+尾崎豊→感受性は尾崎
②~ならば尾崎 世界観なら底なし→尾崎世界観(バンド クリープハイプのボーカル)
③武,水谷+感受性ならば尾崎→すべて「豊」を連想させる。
④馬並みの相棒→それぞれジョッキーである武豊と代表作が「相棒」の水谷豊を連想させる。
というような言葉遊びが込められている。
韻を使うと脈絡のない言葉を持ち出すことができる。これによって言葉遊びを仕掛けやすくなる。これは和歌の掛詞にも通ずる文化といえよう。。ここまでくると,アメリカから来航したラップというより日本語ラップの独自性が発揮されているともいえるかもしれない。
まとめると,このように歌詞にフォーカスした音楽になるというのがラップミュージックの一番重要な点だと考えている。