いまさら「ロビンソン」と「スピッツ」の魅力を語る(3)
3 ヒットの理由とバンドとしてのスピッツの凄み
ロビンソンはスピッツの最初のヒットだった。つまり,それまでは目立ったヒットがなかった。
けれども,楽曲のレベルが低かったかというとそうではないと思っている。そもそも1年前には「空も飛べるはず」が出ているはずなのにそれがヒットしていない(オリコン28位)という事実がある(1996年にロビンソン・チェリーで知名度を上げた後,ドラマ「白線流し」の主題歌に起用されてヒットする。)。
これについては,「ロビンソン」が当時どのようなプロモーションを受けたのかという資料がないため推測することはできない。ただ,あえて予想するのであれば,二つの曲を比較するとロビンソンの方が草野のボーカルによりスポットライトが当たっていると言えないだろうか。バンドが知名度を拡大するにはやはりバンドの顔であるボーカルの特徴が知れ渡らなくてはならない。よって,よりバンド感を抑えて歌謡曲に近い曲にした方が売れる。同時期に売れたミスチルも最初のヒット曲は「CROSS ROAD」であり歌謡曲感が強い(ウルフルズの最初のヒットが「ガッツだぜ」であることを指摘されると厳しいものがあるが…)。
スピッツはそもそも初期は80年代に流行してたパンクバンドとしての色が強く,そこから徐々にいわゆる「歌もの」の曲にシフトしていっている。それがバブル崩壊後の陰鬱な時代とかみ合う形で結実したロビンソンが最初のヒットとなったのではないかというのが個人的な見解だ。
まず言っておきたいのが,スピッツは草野のボーカル一本槍ではない。先にも述べた通り,ギターはアルペジオを多用する,つまり同じメロディを引き続けるので下手をすれば曲が単調になりがちである。それを本来リズム隊と言われるベースとドラムがメロディの寄与することで補うバランス感の優れたバンドだ。わかりやすいもので言えば「楓」はドラムの入りの時点からベースがメロディに寄っていることが分かりやすいのではないかと思う(ベースの音がわからない人は「スピッツ 楓 ベース 弾いてみた」で検索してみよう)。
ところが,ロビンソンは歌謡曲に寄せていく過程でボーカルを立たせるためにベースとドラムは一歩引いてるような曲になっている。ロビンソンはスピッツ本人らが意図したヒットではないという話があるが,少なくとも90年代に流行していた「歌もの」(例えば,サザン,ミスチル,GLAY)に寄せることは意図していたと思われる。
このようにスピッツは流行をバンドに取り入れる嗅覚が優れたバンドなのではないかと個人的には思っている。例えば,2010年代は音楽フェスの盛り上がりから乗りやすい曲が流行りやすい環境にあった。KANA-BOONやフレデリックはそういうシーンで勝ち上がってきたバンドだと思われる。
youtu.beスピッツもそれに呼応して,四つ打ち(「子グマ!子グマ!」)やディスコ調(「エンドロールには早すぎる」)を取り入れるなど,時代に合わせて試行錯誤する姿が楽曲を通して伝わってくるのもこのバンドの魅力である。
(おわり)